+++音楽業界の屋台骨を支えている裏方にスポットを当てたバックステージインタビュー+++
■仕事内容とタイトルを教えてください。
アヴァランチ・マネージメントの代表のBoxxだ。今は、空き缶を集めて小銭に変えてる(笑)。冗談だよ。パヴァロッティ・ダ・ガバナー、ドン・ブレイズ、ロックウェル、その他、何人かのアーティストのマネージメントをしているよ!
■この仕事を始めてどれくらいになりますか?また、音楽業界で働くようになったきっかけは?
きっかけは、ズバリ”お金”だね。オレはまず、ストリートチームの一人として、下積みを始めて、レーベルの重役も経験した今、自分が経営する側にいるってワケだ。
■Deth Row Recordsでも働いていたとお聞きしました。どの時期に、どれくらいの期間Deth Row Recordsに所属していたんですか?
Deth Row Recordsでは5年働いたよ。1992~1998年の間だよ。最初は、ストリート・チームの一人として仕事し始めて、その後は、プロモーション部長に昇格したよ。
■Deth Row Records時代で、特に印象に残っているとを挙げるとしたら?
週に1回給料日があったことだね。全て現金払いだ。とにかく嬉しい額だったのも思い出だ。あとは、Dr.Dre、Snoop Dogg、2 Pac、Tha Dogg Pound、Nate Dogg、Warren G。才能豊かなアーティストたちと仕事が出来ただけで、思い出だよな。恵まれていたと思うよ。何より、楽しかったしな。Suge Knightは、みんなが思っているような人間じゃないし、賛否両論あるだろうけど、彼が”ビジネスマン”であることは否めないと思わないか?年間3億ドル稼ぐってのは、ボディーガードからのし上がった人物にしては、出来過ぎだと思うぜ!
■元々はNYCの出身ですよね?どういったきっかけでDeth Row Recordsで働くことになったんですか?
Grandmaster Flash & Furious Five、Doug E. Fresh、Whodini、Biz Markie、Run Dmc、オールドスクールな面子ばかりだが、当時、オレは彼らのプロモーションをしていたんだ。その時のDeth Row Recordsのプロモーション部長は、ケビン・ブラックだった。意外に知られていないんだが、ケビンは元々はブロンクスの出身なんだ。軍隊に入隊して、L.A.に駐屯になって、そのままL.A.に居着いたとか言ってたな。ある日、ケビンはブロンクスの実家に帰って来てて、オレの行き着けの床屋で初めて会ったんだ。その床屋には、オレが一緒に仕事をしたアーティストたちとの写真が飾られていて、ケビンはすぐにオレに興味を示してきたんだ。Dr.Dreがオールドスクールとニュースクールを組み合わせた作品を創りたいって言ってたらしくて、オレにオールドスクールのアーティストのブッキングをオファーしてきたんだ。その後すぐにGrandmaster Flashに電話して、Melle Mel、その他何人かと一緒にL.A.に飛んだよ。そのとき、Dr.Dreはテキサスにいて、Suge Knightとオレたちは、L.A.から3者通話で制作会議をしたんだ。L.A.滞在中に、何曲か録ったと思うんだけど、結局そのプロジェクトは日の目を見てないな(笑)。とにかく、これがオレとケビンとの初めての出会いだ。その後、ケビンは、オレにNYにおけるDeth Row Recordsのストリート・プロモーションの仕事をオファーしてくるようになったんだ。数ヶ月に1回、ポスターやフライヤー、サンプルなんかを配ったり、高校や大学でのプロモーション活動を積極的にやったね。
■2 Pacが他界したとき、Deth Row Recordsで働かれていたんですよね?このニュースの衝撃はやはり凄かったですか?Deth Row Recordsのスタッフの心情が、全く想像できないのですが。
2 Pacは、過去にも何度か銃撃されているから、電話口でラス・ヴェガスでの銃撃を聞いても「また撃たれたのか?」ってのが正直な感想だったよ。2 Pacは、瀕死の状態にありながらも何度も生き延びて来た男だから、絶対死ぬはずないって思ってた。それから1週間後だったかな、2 Pacが死んだって知らせを受けたのは。心にポッカリ穴が空いたような気持ちってのは、きっとあのことを言うんだろうな。何をするワケでもなく、近所をただただ歩き続けたよ。2 Pacは、エンターテイナーで、本当に”リアル”な男だった。彼ほど、世の中で起きていることに敏感な人間は、今まで観たことなかったよ。地域活動に積極的だったし、無料のミニ・コンサートなんかもよくやってたな。2 Pacは、本当にカリフォルニアを愛していたし、そんな2 Pacを、カリフォルニアは優しく包んでいたんだろうな。たくさんの才能溢れるアーティストたちと仕事をして来たけど、2 Pacとの仕事は、心から楽しかった。彼は、神が与えた才能、そしてそれを使う術をッ持った”スペシャル”な男だったんだ。
■Deth Row Recordsを去った後は、NYに戻られたんですよね?
Deth Row Recordsを離れるちょっと前から、オレはプロモーション会社を立ち上げて、個人で仕事を受けるようになっていたんだ。Janet Jacksonの「The Velvet Rope」を担当したのが、当時Virgin Recordsに勤務していた友達で、彼は他にもShaquille O’Nealなんかも担当していたから、仕事には困らなかったよ。当時、並行してKuruptのプロジェクトも手伝ってたし、Ice Cubeの映画「Player’s Club」とそのサントラのプロモーションにとにかく忙しかったよ。
■Deth Row Records時代含むキャリアの中で、一番印象に残っていることを挙げるとしたら?
そうだなぁ。ストリート・プロモーションは、とにかく楽しかったよ。訪れる土地、地域で、いろんな出会いがあったし、その経験から得たことは一生の財産だよな。Deth Lowは、国内だけでも48州にストリート・チームがあったから、ローカルな土地のプロモーションも土地勘のあるヤツらと一緒で、スムーズだったしな。そういえば、It’s Done!! Marketing and PromotionsのGeneralのインタビューも載ってたよな。Generalは、誰が何と言おうとNYのストリート・チームのキングだよ。リスペクトしてる。
■NYとL.A.両方のHip Hopシーンを体感している貴方の目線での、NYとL.A.の違いを挙げるとしたら?
オレが思う大きな違いは、L.A.の人間はみんな協力し合ってるってことだ。NYの人間は、助け合う気持ちを忘れてしまってるよ。例えばL.A.だと、ラッパー同士がビーフを原因に、相手のCDをブートとして売ったりってことはほとんどないと思うね。『Allen Iverson並みに稼いでるワケじゃないんだから、助け合ってやろうぜ』みたいな雰囲気が出来上がってるんだ。でもNYは違う。それぞれのエゴが強すぎて、それがNYのHip Hopの質を下げてしまってるんだ、とオレは思ってるよ。Papoose、Maino、Jae Millz、Mcgruff、こいつらが集まって何かすればオモシロイと思わないか?彼らは、アンダーグラウンドで、高い評価を受けるアーティストたちだ。他のアーティストやその仲間たちにちょっかい出してるヒマがあったら、協力し合ってアルバムでも創ってみろよ。もちろんL.A.でも暴力事件は絶えないよ。でも、それはどちらかと言うと、”ギャング間”での事件って感じなんだよな。Hip Hopはブロンクスで生まれたってことを思い出して欲しい。NYは、常にこのシーンの”リーダー”として君臨していたのに、今では”フォロアー”に転じてしまっている。この原因は、Hip Hopの本質や真髄を知らずして、自分のエゴを通す人間がNYには増えてしまったことにあるんじゃないかな。それに、見ようによっては、L.A.の人間は”ハングリー精神”がプライドに勝ってるんだと思うよ。NYの人間と比較してな。
■貴方とAV8との関係性をおしえてください。
AV8とは長い付き合いになるよ。何年か前に、多額の損をしそうになっていたAV8に力を貸したことがきっかけで、一緒に仕事をするようになった。その後、オフィスを共有しながら、Jay-ZやEminem、M.O.P.が参加したAV8のアルバム「Ballers Forever」にオレのアーティスト、パヴァロッティ・ダ・ガバナーも参加したりしてるんだ。オレのアーティストたちは、AV8からシングルを何枚か出したりしてる。
■仕事をする上で、心掛けてることといえば?
メイク・マネーだよ(笑)
■貴方のお仕事で、大切なことを3つ挙げるとしたら?
誰に対しても誠実さを持つってことかな。誠意が失われている今だからこそ、特に気に留めているよ。あとは、質の高い商品(アーティスト)を見分けて、きちんと導くこと。自分の意見だけで物事を判断するのではなく、色んな批評を受け入れる勇気も大切だよ。
■ご自身がマネージメントを務めるアーティストの話が出ましたが、”商品”を選ぶときの基準は何ですか?
2 Pac、Snoop Dogg、Kuruptと一流のアーティストと仕事を経験して実感しているのは、彼らのようなアーティストは、実は仕事をするのがすごく楽ってことなんだ。ライブのブッキング、インタビュー、会社の人間は、アーティストが時間通りその場に現れるようにお膳立てすれば良いんだからな。って、遅刻常習者が多数なんだけど(笑)。それと比較すると、オレが抱えているアーティストっていうのは、プロデューサーとMCの2つの”顔”を使い分ける人間ばかりなんだ。要はKanye Westみたいなモンだ。知名度はまだまだ低いけど、来年にかけてスゴいことになる予定だから、期待してくれよ。この場では明言できないんだけど、世界規模のCMの曲を制作中なんだ。ここ10年弱、オレはこのパヴァロッティ・ダ・ガバナーに、業界のイロハを教え込んで来た。オレがいなくても、制作会議やその他ミーティングでの振る舞い方もわかっているし、一人で”組織”級の働きが出来るアーティストなんだ。
■現在、取り組んでいるプロジェクトを教えてください。
エリア52っていうグループのアルバムを制作中だ。超Popなアルバムで、The Black Eyed PeasのFergieやGwen Stefaniな雰囲気だな。それに、パヴァロッティがプロデュース&客演で参加してるよ!
■ジャンルレスな動きですね。
Hip Hopは、対象となる地域や国が狭まるからね。その点、Popsはリージョン・フリーだろ。TimbalandやJustin Timberlake、Kanye Westの曲がHOT97のみでしかスピンされなかったら、あんな風なヒットは生まれないだろ?それと一緒だよ。
■オールドスクール~現在と業界はどんな風に変化してきたと思いますか?
オレがこの業界で働き始めた頃は、何をするにも”楽しむ”ってことが最優先だった。Grandmaster Flashは、パーティーでDJしてナンボだったし、グラフィティ、MC、ビートボクサー、ブレイカー、それぞれがみんなで協力し合ってHIP HOPをレペゼンしてた。”MC”ではなく”ラッパー”が大挙する今は、”企業”がその舵取りをしていて、多額の金を稼ぐようになった。当時の俺たちは、今と比べると少ない額しか稼げてなかったけど、”幸せ”だったよ。
■Hip Hopが市民権を得る状況を予想していましたか?
全然思ってなかったね。もちろん、Hip Hopが大きくなることは予想していたけど、まさか世界規模で認知されるとは思ってなかったね。今では、Hip Hopは世界語だろ(笑)。一気に稼いで辞めようと思ってたのに、辞められなくなっちまったよ。
■デジタル・ディストリビューションも向こう数年で主流になっていくと言われていますし、何よりも今は、音楽業界”梅雨”まっさかりですよね。
デジタル面に関しては、もう何年もその動きはあったしな。どう変化していこうと、時代のニーズに乗り遅れたら話にならないってコトだね。CDが売れないのは、NYに限定して言うと、とにかくブートが多すぎるんだよ。それが実売を落としているってことに気付かない安易な人間が多すぎる。後は、消費者が欲する”GOOD MUSIC”が少ないんだよ。例えば、この間のKanye West vs. 50 Centの同日リリース。彼らの1週目の数字は、素晴らしかったよな。もちろんリリース・バトルが影響しているのは明らかだけど、でも、それ以前に作品のquot;質quot;が、セールスにも反映しているんだとオレは思うけどね。Kanye Westも50 Centも、2 Pacとは違った”カリスマ性”を持ったアーティストたちだ。彼らの”アグレッシブさ”や実力の伴った高飛車な態度を観てると、たまに2 Pacとクロスオーバーするんだ。
■Kanye Westと50 Centのバトルの話が出ましたが、それでは今のシーンには、何が欠如していると思いますか?
瞬発力かな。NYに関しては、原点回帰する必要があると思うよ、本当に。昔のプロデューサーたちは、サンプリングとオリジナリティを上手く融合させてた。さっきも言ったけど、みんなで協力してメイク・マネーしてた。NYの実力派MCたちがコラボしたコンピ、聴きたいと思わないか?
■アーティスト同士のコラボは、今では特に南部のスタイルとして確立していますよね。
その通り。NYのアーティストは、自分以外を見下して協力することをしない。誰が上とか、下とか、判断基準が”自分”ってのもダメなトコだよな。サウスは、お互い賛辞を贈り合って、一緒に仕事をする。それによって露出の幅も増えるしな。L.A.も同じだ。Mixtapeで名前を売ってるヤツ、スタジオで一緒になったヤツ、フロウが気に入れば、次の瞬間一緒に仕事してるってケースを幾つも観て来たよ。そうやって、たくさんの才能が世に出て来たんだ。
■ジャンルを開拓してきたパイオニアたちが今だ現役の”Hip Hop”は、他ジャンルと比較して”若い”ムーブメントだと思うのですが、実力派MCのコラボ以外にも、個人的には、ベテランと若手のコラボを期待したいですね。
さっき言ったDr.Dreが企画してたのとは別で、数年前に同じようなプロジェクトが上がったんだ。Grandmaster KazとRedman、Melle MelとMethod Man、他、オモシロそうな組み合わせだろ?彼らを新進気鋭のプロデューサーたちがプロデュースするって内容だったんだ。結論だけ話すと、制作の一人がバジェッドを持って飛んじまって、企画は頓挫だよ。
■残念ですね。Melle MelとMethod Manって、かなり興味深いです。さて、アーティストたちと個人的なお付き合いもされている貴方ですが、話せる範囲で可能なので、何かオモシロ話を聞かせて下さい。
さすがにこの年じゃ、アーティストと遊びに行くとかは無くなったけど、電話でよく話すのは、Ice-Tかな。あとは、M.O.P.のBillyは、よくAV8のスタジオ使ってるから、やたらに無駄話ばっかしてる。Redman、Keith Murrayも、近くに来ると必ず寄ってくれるし、Snoop DoggやKuruptもNYにいるときは一緒にチルしたりするな。オモシロ話か。何があるかな。あ、Dr.Dreの好きな酒って何だと思う?外見的に見ると、ヘネシーやシャンパンを好む感じだろ?みんな気を使って高い酒を持ってくるんだけど、Dr.Dreって実は、ファジーネーブルが一番好きなんだぜ。悪名高いSuge Knightも実は、メロンボールがお気に入りなんだ。もちろん2人とも、ヘネシーもシャンパンも飲むけど、自分でオーダーするのは、ファジーネーブルとメロンボールがだんとつに多かったよ!
■Hip Hop史でトップに位置するプロデューサー&MCをそれぞれ3人挙げるとしたら?
プロデューサーは、Dr.Dre、DJ Premir、あとは、Easy Mo Beeだな。Easy Mo Beeは、もっと評価されても良いと思ってるよ。MCは、2 Pac、Rakim、Melle Melだな!
■最後に、音楽業界で仕事を希望している人たちにメッセージを。
諦めないで、努力を続けることだ。常に上を向いて!
Interview & Text: sassyism