■三太さんがマンガを始められたきっかけっていうのはどんなことだったんですか?
父が画家っていう環境もあったし、紙がたくさん仕事場にあったから、いつも絵を描いていて。ディズニーのアニメとかも好きで、そういうのがやりたいなとは思ってた。だからやっぱりマンガが好きだったからですね。大好きだったから、マンガ家になるっていうことしか頭になかった。それしかないと思ってやってきたんで、高校生になったら(出版社に原稿の)持ち込みを始めて。大学の途中にはデビューしたいっていう計画があったんで、もうずっと目標に向かって直進というか。「早くデビューしたい」っていうことばかり考えてましたね
■その段階で苦労したことはありましたか?
そうですね、まあ暗い時代はありましたね。例えば友達が先にデビューしちゃったりだとか、なかなか女が出来なかったりとか・・・燻ってた時代はありますよね。今回、単行本の中に隠しトラックとして自伝小説を入れたんですよ。初の試みなんですけど、単行本のどこかに入ってるんで。ちょうど自分が燻っていた時代のことを小説風にして入れたんですよ
■では、プロのマンガ家として歩み始めたのはいつ頃だったのでしょう?
20歳の時に描いた作品が21歳の時に賞を取って。それでヤングサンデーっていう雑誌でデビューしました。やっぱり嬉しかったですね。バイトするのが嫌いだったんでもうやりたくないし、やっぱりマンガで喰っていきたいなぁと思っていたんで。それまでに15~16作くらい描いて持ち込みしてたから、”遂に!”っていう感じで
■受賞した作品はどういった内容だったんですか?
それは『まぁだぁ』っていうタイトルで、少年がお父さんとかを殺しちゃうっていう、ちょっと乾いた感じのするショッキングなやつでしたね
■では、三太さんとHip HopやR&Bとの出会いは?
まあ何ですかねぇ・・・これはみんなする話ですけど、全米Top40とかそういうのがあるのかなと思いますね。レンタルビデオやCD屋でバイトしてた頃は聴き放題だったんですけど、そこでBobby Brownを好きになったんですよ。僕はTeddy Rileyを神様みたいに崇拝してるんですけど、そこから「MCAっていうレーベルなんだな」って気付いて、Jody Watleyとかをいろいろ調べていった。同時にいろんなライナーノーツとかブラック・ミュージック・リビュー(bmr)を読んでいて、だんだんと好きになっていきましたね。Hip Hopは、当時流行ってるし一応聴いてみようみたいな感じだったんですけど、聴いてみたらかっこよかったから
■Hip HopやR&Bのどういった部分に惹かれて好きになったんですか?
日本のR&B評論って、例えばNew Jack Swingが流行ったときも、「音のハネがどうした」とか「何分の一の音で、これはGap Bandからの手法だ」とかずっと研究してたんですけど、作った人たちはセックスするためとかで作ってると思うんですよね。Keith Sweatとかだって、「これでセックスしたくなるべ? ビンビンだべ?」っていう、黒人っぽさで作ってると思う。それを研究していってももちろんいいんだけど、多分本人的には別にそんなこと考えてないとは思うんですよ。そういうところが好きですね。昔ある番組で、久保田利伸が「何でブラック・ミュージックをやってるのか?」って訊かれたときに、「理由はないけど、DNAにアフリカがあるんじゃないか」とか答えてて。そういう深くないところに深みがあるというか。TimberlandのブーツだったりNikeのAir Force Ⅰだったり、キックスを常にきれいにしてるとか、そういうのっていいじゃないですか。好きなもの同士は分かるけど、特に深い理由はない、みたいな
■Hip Hopとマンガを融合させようと思ったのはどんな経緯からだったんですか?
やっぱりどっちも好きなものだったからですね。岡崎京子さんっていうマンガ家がいて、女子から絶大な人気があった『Rock』っていうマンガを、昔CUTiEに連載してたんですよ。俺はHip Hopが好きだったし、Hip Hop文化のマンガを描こうと思ったけど、実は最初は自分が大好きなものだからマンガにするのはちょっと嫌だなとも思ってたんですよ。でも、やっちゃったんですよね。そこからずっとやってるっていう感じですね
■マンガにすることを躊躇ったとおっしゃいましたけど、それはどうしてなんですか?
なんだろうな・・・自分の大事な女を芸能人にしたくないみたいな。大事なものはあんまり言いたくないっていうか。例えばここに石原都知事がやってきて(モノマネで)「あー、キミの好きな音楽はどんなのなんだね?」って訊かれたら、なんか言いたくないじゃないですか(笑)。「どうせ言っても理解してくれないでしょ」みたいな
■Hip Hopが好きな三太さんがHip Hopのマンガを描くからこそ、常に気を付けていることは何ですか?
「Hip Hopは黒人のためのCNN」っていう言い方をしてるChuck Dが元々はマンガ家だったっていう話を聞いたんですけど、Hip Hopが自分の生活をレペゼンするっていうものであれば、日常を切り取って表現するのであれば、俺がやってることもHip Hopなのかなっていう気持ちでやってますね
■ラッパーが曲を作るのと同じように、三太さんはマンガでそれを広めているっていうか。
そうですね、その通りです
■Hip HopやR&B以外に、三太さんのマンガに影響を及ぼしているものはありますか?
たくさん観るし、やっぱり映画はデカいですね。結構いろんな映画が好きで、ギャング映画もアクションも『マルコヴィッチの穴 (Being John Malkovich)』みたいなのも好き。恋愛ものも好きですよ。そういえば、日本のヒップホップって考えるといい映画ってないんですよね。ヒップホップ好きで映画観に行って、クラブがちゃんと描かれてたことなんて一回もないじゃないですか。ドラマでもそうですけどね。あれはあれでいいし何にも否定しないんだけど、『池袋ウエストゲートパーク』以降に「これが若い人ですよ」っていう感じがドラマにも出てきたけど、あれはあれっていう感じでHip Hopがどうしても描けていない。でも、『Notorious』では普通にそういうのが描けてるじゃないですか
■そういったエッセンスや映画の影響も、TOKYO TRIBEシリーズには色濃く出ているんですね。
まさにそうですね
■TOKYO TRIBEシリーズを読んでいると、三太さんはきっとゲームもお好きなんだろうなっていう感じがしますね。
ゲームも好きですね。多分予想してる通り、ROCKSTARのゲームとか好きですよ。昔、『Grand Theft Auto(GTA)』とTOKYO TRIBEがコラボしたようなゲームを作ろうっていう話があったんだけど、なんか頓挫しちゃってて。やっぱり東京でもやりたいじゃないですか、GTA。例えば渋谷にいたヤツが第三京浜使って横浜まで行ったら、ウェッサイが流れててDS455が出てきたりとか、千葉に行くとTEAM 44 BLOXが出てきて・・・とか(笑)。『これ246じゃん!』とか『これ(渋谷)HARLEMじゃん!』とかね。アメリカのヤツらはそれをやってるワケだから、ヤバいですよね
■確かに。東京編、あったら面白そうですね。
でも、東京は外から観たものを描いちゃいけないと思う。地元をレペゼンするのがヒップホップだから、その逆は良くないっていうか。『ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT』(The Fast and the Furious: Tokyo Drift )とかもめちゃめちゃだったじゃないですか、東京が。「東京はこうなんだぞ!」っていうのを外に向けてカマしたいし、それを今はまだカマしきれてないっていうのが悔しい。海外のラッパーが、日本のストリート・ブランドはかっこいい、レコードもあるし、女の子もかわいいしとか言っても、それを映画とかでパッケージにしないと外国には出せない。でも、石原都知事は渋谷をシュート(撮影)させないんですよね。許可を出さないじゃないですか。やっぱりそれで結局遅れちゃってる気がするんですよ。NYでもLAでもそうなのに。しかも映画とかでそういうのを観て、「NYに行ってみたい!」とか「うわー、映画と一緒だ!」って思うワケですからね。そういうのは重要だと思うんですよね
■TOKYO TRIBEシリーズは、まさに今おっしゃったようなことをマンガで映し出しているますしね。
そうありたいですね。やっぱり「レペゼン東京!」みたいなそういう気持ちはありますよ。でも、TOKYO TRIBEのアニメも地上波じゃできないって言われたし、薄められたものやそれ以前な薄っぺらいものがメディアに溢れてて、現状ではそういうものが影響力を持ってるから『悔しいですッ!』って思うね。窪塚洋介さんみたいな人もいるし、市原隼人さんだって日本語ラップを聴いてるらしいしさ~。「だったら何かやろうよ!」って思いますよね
■今回、TOKYO TRIBE 3の1巻と2巻が同時発売になりましたよね。簡単で結構なので、三太さんの口からTOKYO TRIBE 3がどんなストーリーなのか聞かせていただけますか?
TOKYO TRIBE 2を10巻以上やっちゃったんで、同じようなマンガを描いてもしょうがないなっていうのがまずあったんですよ。主人公の名前は違うけど話は一緒、みたいなのはやりたくなかった。TOKYO TRIBE 2では男同士の友情を描いたんで、今度は男女の話がいいなと思ったんですよ。それで、渋谷のラッパーが横浜のプリンセスに惚れちゃったけど、渋谷と横浜が戦争状態になっちゃって、ロミオとジュリエットみたいになかなか会いに行けない、みたいな設定が面白いかなと思ったんですよ。それは、94年くらいに起こったルワンダ紛争っていう事件を描いた映画『ホテル・ルワンダ』(Hotel Rwanda)と、ディカプリオの映画『ブラッド・ダイヤモンド』(Blood Diamond)にもインスパイアされてますね
■フィクションとノンフィクションが交錯しているのも面白いですよね。
俺はリアルな部分も描きたいんだけれども、架空の部分も描こうと思ってるんですよ。最終的にはやっぱりフィクションなワケだから。最初は、渋谷にいる人が横浜に行くのに命懸け、みたいな設定にしたら面白いかなって思ったんですよね。それで、日本には拳銃が入ってきていないけど、今回はそれを入れてみようと思って。俺たちはアメリカのいいところをたくさん真似してきて、「アメリカ、ヤバい!」って言ってきたけど、拳銃だけは入ってこなくて本当によかったねって思うじゃないですか。いくら体鍛えてたって撃たれちゃったらどうしようもないし、拳銃が入ってきていたら本当にお終い。でも、逆にそれが入ってきたらどうなるのかっていうところをちょっとマンガにしてみたかったんですよね
■TOKYO TRIBEシリーズを中心に、三太さんがマンガを通して伝えていきたいことは何ですか?
答えがあることをやってるワケじゃないけど、ただ「一番面白いことは雑誌やネット、TVじゃ見られない」っていうことがテーマですね。大事なのはこうやって会って、話すこと。ネットが発達して、例えば重いデータでもやりとりできる時代じゃないですか。もちろん忙しいときはそれでいいんだけど、会って無駄話することも大事なんですよね。特にHip Hopって、無駄話の集積みたいなところがあるし・・・
■では最後に読者にメッセージをお願いします。
とにかく読んでほしいですね。マン喫じゃなくて、買ってほしいです(笑)。俺も生活かかってるし、家族喰わせていかなきゃいけないんで笑い・・・。でもホントはあんまりメッセージとして言いたいことはないんですよね。マンガに全部こめちゃってるから。なんつって(笑)
Interview & Text : 吉橋 和宏 / Co-operation : SANTASTIC!
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