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■かなり久々の日本だと思うのですが、最後に来日されたのはいつですか?

1995年の2月だよ。バレンタインデーだったな。

 

■10年以上前ですか!おかえりなさい!って感じですね。前回の来日以降、何か大きな変化はありますか?

自分自身の変化としては、いろんな経験を積んだことで成長したと思う。年を取ったと言うよりも”成長”したんだよ(笑)。日本はとても素晴らしい国だと思うし、戻って来れてとにかく嬉しいね。来日の度にいつも驚かされているし、リリックを書いたり、クリエイティブな気持ちを高めてくれる心地良い場所なんだ。

 

■日本が心地良い場所だとおっしゃいましたが、アメリカとのヴァイヴスでの大きな違いを上げるとしたら?

日本人は理解力が高いと思うよ。Hip Hopカルチャーをきちんと理解して、感謝する気持ちを持っているからね。アメリカ人は、Hip Hop自体を湾曲して捉えてると思うし、感謝の気持ちを失っていると思うんだ。今回は、日本のローカルDJと一緒にツアーしているんだけど、彼らは本当に素晴らしい才能を持っているし、ショー自体をネクストレヴェルに押し上げてくれたと思ってる。感謝だね!

 

■昨年リリースしたソロ・アルバム「American Me」のコンセプトを教えてください。

コンセプトは”俺の人生”そのものだよ。俺が良い音楽を創って、ソロ・アーティストとして復帰する可能性に疑問を持つ人間がたくさんいたんだ。だから、そう思ってるヤツらに証明する必要があった。俺はまだ現役だってことをな。でも、俺が終わったと思ってるヤツらの存在は、Hip Hopへの愛情を燃え上がらせてくれたし、制作する上で大事な糧になったよ。日本のような場所に来るといつも実感するんだけど、例え言葉が理解できなくても、感謝の気持ちは伝わるんだよな。だから、俺はこのアルバムを誇りに思っているし、考えていることをきちんと反映できた、キャリアの中でもベストな作品だと自信を持って言えるね。

 

■制作期間はどれくらいでしたか?

3ヶ月で仕上げたよ。常にアンテナを貼って上のレヴェルを目指していたから、取り組み始めたらあっという間だったよ。

 

■アルバムタイトルと同名の「American Me」をシングルとして切っていますが、その理由は?

自分を”指導者”として位置付けることで、Hip Hopが社会的にどういう存在かを示したかったし、みんなに政治的な視点で考えて欲しかったんだ。今は、新しいHip Hopにしかスポットが当たらない状態で、情報が希薄で洞察力に欠けている状態だろ。俺はHip Hop黄金期と呼ばれる1990年代を生き延びてきた人間だ。1990年代は、コンシャスな作品が溢れていて、みんなが政治的な視点でも考えていた時代だったんだよ。だから、そういう要素が全て含まれているこの曲をリードシングルにしたんだ!

 

■Hip Hop黄金期の1990年代を生き延びて来たとおっしゃいましたが、現在のシーンとの大きな違いは何だとお考えですか?

創造性や独創力の違いだと思うね。1990年代は、アーティストの個性が発揮されていたし、それぞれが自分の”色”を出そうと努力していたと思うね。今は、売れたモノを模倣しているだけで、水で薄めたような作品ばかりだ。そんな中でも素晴らしい作品は存在するけど、新しい世代を代表するには力不足な気がするな。

 

■ちなみに、Hip Hop創世時は、アンダーグラウンドの音楽として認識されていたと思うのですが、現在ではチャートを席巻するジャンルになっていますよね。メインストリームに食込んで来た理由は何だと思いますか?

昔よりもアーティストにとっての販路が開けたからだと思うね。マーケティング力が付いたってことだよ。音楽が”商品”を売るための大切なツールになっていて、洋服、靴、酒・・・と、音楽とリンクして商品を売ることで、その曲自体の認知度も上がっているんだ!

 

■”音楽”以外のビジネスに着手する予定はないのでしょうか?

俺はどちらかというと、スピリチュアルな人間だから、自主的に手を広げようとは思っていないね。俺もみんなと同じようにお金が大好きだけど、”俺”という人間を確立させてくれた”芸術”を犠牲にしたいとは思わないんだ。今の俺があるのは、リアルなHip Hopを追求し続けたからで、もちろん今後もその探究心は活き続けると断言できる。だから、スピリチュアルな部分で音楽と他のビジネスがリンクできたら、その可能性はあるかもしれないね。

 

■最近、リリックでの差別用語や女性蔑視用語の使用に否定的な意見が話題になっていますが、貴方の意見をお聞かせください。

差別用語や女性蔑視用語に対しては、俺自身は問題無いと思ってる。表現の自由は守られるべきだと思うしね。大切なのは、言葉の裏側にある意味を考えることだよ。差別用語の多くは、その言葉しか意味し得ない意図が隠されているからね。差別用語そのものに焦点を当てるのではなく、聞き手の注意を惹くためだけに使用していることが間違っているのであって、その言葉にきちんと意味を込めて使うことは何ら悪いことではないって、Luther Vandrossも生前に言っていたしね。守りに入ることばかりじゃなく、音楽が持つ本来の魅力に気付くべきなんだよ。

 

■その他に、最近のヘッドラインを飾ったトピックに”Crunk”が辞書に掲載されることになったニュースがありましたが、NYアーティストとしてサウスの台頭は予想されていましたか?

もちろん。NYでHip Hopが生まれて、西海岸が騒がしくなって、今はサウスの時代なんだよ。その昔のシーンは、NYアーティスト一色だったし、NY出身じゃなきゃ世界を観れないという時代もあったけど、今では全米中の"地方"にそれぞれのHip Hopが生まれて、しっかりと根付いているんだ。日本のHip Hopシーンだって同じことだよ。世界的な知名度は無いかもしれないが、地元で熱い支持を受けるアーティストが増えたってことだよ。

 

■シーンに長く君臨されている貴方ですが、そもそもラップをし始めたきっかけは何だったのでしょうか?

絵を描いたり、詩を書いたり、アートに触れることが大好きだったんだ。最初は建築家を目指したりもしたんだ。でも、ラップをするのに向いてることに気付いて、”ミュージシャン”に転向したんだ。全く違う職業だけど、何かを創り上げるという意味では、同線上にいると言えるだろ。引き際を知らないアーティストが多い中、仮に俺が引退表明でもしようもんなら、周りがそれを許してくれないんだ。俺はいつだってみんなに必要とされている自負があるし、俺のようなタイプのアーティストが現役で頑張ることで、シーンのバランスが取れているんだ。俺はまだまだ現役を張れる年齢だし、と同時に、ベテランとして問題提起できるキャリアがあるんだ。だから、ラップする情熱が消えない限り、俺は現役を続行するし、Hip Hopをより発展させるために尽力するつもりだよ。

 

■盟友であるPete Rockと再結成するご予定は?

今の時点では、はっきりしたことは言えないんだ。でも、自分に課せられたことをきちんとこなしていれば、どんな可能性でも開けると信じてる。

 

■日本のシーンを御覧になりましたか?

もちろん。日本人のHip Hopに対するムーブメントは素晴らしいと思うし、俺のライブを観に来てくれた客からも学ぶことが沢山あったよ。今後、日本のアーティストとも積極的に仕事したいと思うし、少しでも日本のシーンの活性化に協力出来れば嬉しいね。

 

■先ほど、フリースタイルをしているところを拝見しました。空き時間によくフリースタイルをされるんですか?

そうなんだ。練習にもなるし、フリースタイルをしているときにひらめいたことが結構形になったりもするしね。そういえば、日本のプロデューサー、Nujabesと一緒に何かやろうと話してたトコロなんだよ。彼は、素晴らしい才能を持っているね。みんながビックリするようなことを一緒に創り上げようと思っているんだ!

 

■先日、代官山Unitでのショーを拝見しました。エネルギッシュでとても素晴らしかったです。パフォーマンスをするときに、何か心掛けていることはありますか?

客から受けるヴァイヴスが、その場で俺の最適な動きに導いてくれるんだ。自分の曲以外にも、ソウルのインストだけを流したりすることで、俺が何に影響を受けて曲を創るかを客に訴えることが出来ていると思うし、それによって言葉の壁を超えて、”俺”という人間を理解してもらえていると信じてるよ。

 

■今後、Hip Hopはどう進化していくと思いますか?

未来のことなんて誰にもわからないよ。でも、正しい方向に発展していくことを願うね。俺自身、今までは大きな会社に守られて来たけど、もうそんな時代は終わったんだ。都会育ちの俺にとって、トランク直送でCDを売ったりするのは異次元のことだと思ってたけど、それだって一つの販路には変わりはないんだよな。これからは、リスナーがCDを手にするのを待つんじゃなくて、自分から歩み寄っていくことが大切なんだと実感してるよ。

 

■貴方にとってのHip Hopの定義をおしえてください。

ストリートが生んだ芸術で、ゲトーから抜け出す術だね!

 

■最後に日本のファンにメッセージを!

何をするにも集中力を切らさないことだ。そして、一度始めたことはやり遂げるコト。日本人は、相手をリスペクトすることを無意識の内に実行していると思うんだ。例えば、雨の日に傘をさしている人間がたくさんいても、誰一人として他人の領域を侵しているヤツはいないだろ。相手のことを知らなくても、自分の領域を保つように、相手の領域もきちんと守っている。その気持ちを大切に、お互いに牽制しながら頑張っていって欲しいね。

 

Interview & Text: sassyism
Cooperation : STRIDING RECORDS

 

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