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■まずは、バイオ的なことから聞かせてください。業界歴や業界に身を置くきっかけは?

この業界に身を置くようになって14年だ。

 

■今、おいくつでしたっけ?

27歳だ(2009年現在)。13歳からDJを始めたよ。HOT 97のボストン支局でDJをしていた頃に、最初に親しくなったアーティストは、Royce 5’9″、Tony Touchだったよ。19歳~20歳の頃だったな。Royce 5’9″がオレのスタジオに来てレコーディングしたのが初めての(プロデューサーとしての)オフィシャル仕事だったな。当時、Royce 5’9″は既に有名だったし、彼との仕事はオレのその後を開いてくれた。Tony TouchやO.C.ともレコーディングしたし、KRS-Oneのアルバムにも参加して、今の成長があるんだ。

 

■『Stick 2 The Script』は、日本でもヘッズの間では話題になりましたが、制作期間はどれくらいでしたか?

制作期間は2ヶ月だ。日本でも話題になったことは嬉しいね。日本でライブをしたO.G.たちはみんな口を揃えて「日本は今だにHip Hopを愛してくれる人間が沢山いるし、1995年にトリップした気分になって最高だ」って言ってたしな。オレがリリースした最初の12インチはKRS-OneとO.C.のコラボ曲のRemixで、1番最初に日本からのオーダーが入ったことをよく覚えているよ。その後も、Reggaeのみの作品を日本限定でドロップしたりもしたな。日本はオレにとって特別な思い入れのある土地なんだよ。明日からQ-Tipと一緒に日本でライブだから、楽しみでしょうがないよ。

 

■初来日ですか? 日本で1番楽しみにしていることは何ですか?

初めてだし、日本に行ける日をずっと待ってたから楽しみで仕方ないね。1番の楽しみは、やっぱり沢山のヘッズを楽しませることかな。それにQ-TipのDJとしてステージに立つってことは、ヘッズの興奮は約束されたようなもんだし、その一部になれるのは手放しに嬉しいよ。Q-Tipは、たくさんのクラッシックを残しつつも、常に第一線を走り続けて来たアーティストであり、今だそれは衰え知らずだろ。Q-Tipと肩を並べられるアーティストなんて他に誰がいる?ナズにも同様のことが言えるけど、NasにはA Tribe Called Questのクラッシックのようなレコードは無いだろ。A Tribe Called Questのクラッシックは、別レベルだと思うね。

 

■M.O.P、Jadakiss、Cassisy、Saigon、Termanology、Redman、Bun Bほか、新旧織り交ぜた人選やその組み合わせも興味深いと思ったのですが、オファーをする際のベースとなることはなんですか?

『Stick 2 The Script』に関しては、好きなようにビートを作って、好きなように人選をしただけだよ。政治も金も一切関係無くな。ラッパーが吹き込んだ曲をちょっと調整してリリースするヤツらが多いけど、そんなのプロデューサーとは呼べないね。ラップが載ったトラックをさらに味付けして完成させるのがオレのやり方だ。ラジオDJをしていたことで、アーティストとの信頼関係が築くことが出来たと思ってる。アーティストは(プロモーションの為にも)ラジオDJが必要だし、そういう意味ではお互いに利害が一致していたんだ。アホみたいに膨大な額を宣伝に費やすよりも、(人気ラジオ局の)DJと仲良くしていた方がよっぽど効果的だからな。例えばFreewayなんて「オマエはリアルなHIP HOPをサポートし続けてくれるから、オレに出来ることなら何でも言え」って言って、1度だってギャラを請求してきたことが無いんだ。Freewayとは既に4~5曲コラボしたんだぜ。今は、ゲームのスコアとサントラを作っているんだ。ゲームの仕事はギャラが良いから、これでアーティストたちにも還元できるよ。お互いに助け合う、それが上手くいく秘訣だと思うね。オレは今まで一緒にコラボしたアーティストにお金を払ったことなんてないんだ。名前は言わないけど、ファーストアルバムを作るときにあるアーティストにギャラを払ったけど、そのアーティストの友達で彼よりもずっと知名度のあるアーティストとセカンドで仕事したとき、彼は無償でオファーを受けてくれたんだぜ。確かに(お金を払ったアーティストの存在によって)アルバムがより大きなものになったけど、今までのキャリアでギャラを払ったアーティストはその1人だけで、後は全てリスペクトの上に成り立った仕事なんだよ。お互いに尊敬し合って、助け合う、これが大切なことだね。オレは人気ラジオ局6~7社に融通がきくから、快く協力してくれたアーティストたちがアルバムをリリースするときは、全力でサポートしてきたし、それが今のオレのプロップスのベースになっていると思うね。今のHip Hopマーケットにおいて最も必要とされていながらも欠如しているのが”助け合い”精神なんだよ。オレがビッグネームばかりを集められることを疑問に思っているヤツも多いし、中には「Jadakissにヴァースを頼んでくれ」って言って来るヤツまでいるけど、今までのオレの仕事の上に今のコネクションがあるってことを忘れてるよな。ファーストアルバムは、ストーリー性を持たせたつくりにしてあるから、そっちも併せてチェックしてくれよな。

 

■「To The Top」以外にビデオを撮る予定は?

他にも撮る予定はあるよ。現時点で予定しているのは、「Church」と「Destined To Shine」もな。M.O.P.とJadakissのコラボ曲「For The City」は、Def Jamが気に入って、Jadakissのアルバムに収録される予定だったんだけど、サンプリングのクリアランスが間に合わなかったのと、その他諸々事情があって流れたんだ。

 

■個人的には「This Is It」のビデオを撮って欲しいと願っているのですが(笑)。

撮りたいね。Black Robを連れてくるのが難しそうだけどな(笑)。ついこの間までRedmanともツアーしていたんだ。「This Is It」は、元々はオレがD-DotのMixtapeをリリースして、その後、D-Dotが収録されていたあの曲をオレにくれたんだ。アルバムの中で唯一のRemixなんだけど、元の曲が日の目を見ていないし、オリジナルよりもドープだと自負しているから、オレ自身も気に入っている。RedmanはオレがRemixしたって知らなかったみたいで、ツアーでアルバム『Stick 2 The Script』を渡したらビックリしてたよ。ここだけの話、『Stick 2 The Script』の中で1番iTunesでDLされたのが「This Is It」なんだぜ。「For The City」よりも人気があるなんて、最初はあんまり理解できなかったけど、クレイジーだよな(笑)。「For The City」は、オレが作ったクラッシックだと思っているし、自分でこんな風に言うのは性にあわないけど、Kay Slayも気に入ってくれてるみたいだし、DJ Premierにも「クラッシックだ!」って言われたんだ。いろんな意見や感想があるだろうけど、DJ Premierにクラッシック認定を受けたら、他の批評家たちが何と言おうと関係ないね。

 

■Joell Ortiz、Talib Kweli、SkyzooのBK勢の曲「Talkin’ Bout You」も大好きです。アルバムで唯一の女性への曲ですよね。

あの曲は女のコたちへの曲だから、むさ苦しい野郎共もあの曲を褒めてくれるけど、女のコに褒められるのは単純に嬉しいね。

 

■ファーストから1年弱でセカンドをリリースしていますが、制作スパンも結構短い方ですよね?

基本的にはちょっと飲みに行く以外はスタジオで作業しているし、この間なんて48時間ぶっ通しでSaigonとレコーディングしてアルバムを完成させたんだ。

 

■48時間で!? どういった経緯で? Saigonといえば、延期を繰り返している『The Greatest Story Never Told』のリリースもまだですよね?

時間は掛かっているけど『The Greatest Story』はリリースはされるハズだ。みんなSaigonはアトランティックから解雇されたと思ってるけど、アイツは”リングトーンレコード(着メロでヒットし得る楽曲)”を録る気は無いし、そうなるとアトランティックからのアルバムのリリースは難しいと悟って自分から望んで離脱したんだ。アルバムの版権はSaigon自身が買い戻しているから、後は所属先を吟味するだけだ。『The Greatest Story Never Told』を聴かせてもらったけど、本当にアメイジングだったぜ。みんなの期待以上のものだと思うね。って、『The Greatest Story Never Told』も良いけど、オレと仕上げたアルバムもクレイジーだぜ。作り方からして最強にクラッシックだからな。他のラッパーたちは、パシリを買い物に行かせたり、仮眠のために家に帰ったり注意散漫だけど、Saigonはスタジオのソファーで落ちる(=寝る)まで集中力を切らすことが無かったよ。スタジオには人が沢山いて、みんな口にはしないけど「これはHIP HOP史に残る作業だ」って気持ちを持っていたし、オレにとっても素晴らしい経験の一つだったと思ってる。例えるなら、MCサーチがナズを、DiddyがBiggieを初めて聴いたときの気持ちに近いと思うね。Saigonとは5~6年の付き合いだけど、あのレコーディングを通して、Saigonに対する見方が大きく変わったよ。彼は間違いなくトップMCの1人だと思うし、それを活かせる環境に身を置けることを願っているよ。アトランティックが後悔する日は近いと思うね。

 

■Saigonとのアルバムはいつリリースする予定ですか?

来週の月曜(2/9)(この時点で2/6金曜)にはリリースしたいんだけど、ディストリビューションの契約をしないといけないみたいで、それは難しそうだな(笑)。i-TunesにUpして小銭を稼ぐことも考えたけど、せっかくだからちゃんとしようかと思って。

 

■期待の新人や、気になっているアーティストはいますか?

Jay Electronicaの動向は常に気になってるよ。インダストリーが牽引する”売れ線”のことをしたくないってスタンスなのは理解出来るけど、やっているコトのイメージが高尚過ぎて、彼の音楽は一般的なリスナーに敬遠されがちなものになっているだろ。オレは彼が他のアーティストたちとコラボしている曲をもっと聴きたいと思うし、クオリティの低い曲が乱発されている今だからこそ、彼の”ソリッド”さは必要だと思うね。今のシーンにおいて、Jay Electronicaは本当に才能のあるアーティストだと思うよ。あとはオレのアーティスト、Kaliも紹介しておかないとな。名前からもわかるように、カリフォルニア出身で、Termanologyがアルバムのエグゼキュティブ・プロデューサーなんだ。オレとTermanologyの『1982』も、生涯通して聴ける作品に仕上がったと思っているし、Lil Fameをフィーチャーした曲のフィードバックも上々だよ。マサチューセッツ出身のJFKもいるな。アイツは服役していた時間が長いから、人生の捉え方が他とは一味違っていて興味深いと思うね。

 

■JFKと言えば「Everybody Wants To Be A Rapper, Not A Fan」のフレーズを思い出します。

その通り。JFKは俗にいう”リアル”を通しているヤツだし、ただの”ストリート出身”って括りだけには留まらないラッパーだと思うね。

 

■影響を受けたアーティストを挙げるとすると?

DJ Premie、Dr. Dre、Pete Rock・・・正直なところ、90年代を彩ったアーティスト全てから影響を受けたと思ってる。オレは13歳の頃からラジオをやっていて、多感な時期の唯一の”趣味”であり”楽しみ”がHip Hopだったから、全てのアーティストに影響を受けているし、今のオレのサウンドはその頃に培ったものを展開させた形なんだ。当時はDJとしてスクラッチや客を興奮させることに情熱を注いでいたから、初期の頃のオレのビートは大したことないんだ(笑)。ビートを作ることに情熱を見出せなかったからな。でも、今はスタジオにこもって作業することが何よりも楽しいし、それがビートの進化にも繋がっていると思うね。もちろん、DJとして300人を熱狂させるのもおもしろいけど、自分の作った曲がネットやお店を通じて、世界中の人間を興奮させることが出来るって、最高だと思わないか?

 

■今後の予定は?

もしこの質問を2日前にしてくれてたら、Termanologyとのアルバム『1982』のことを真っ先に話してただろうな。でも、さっきも言ったように、この2日の間にSaigonのアルバムを完成させたし、あとは、Joell Ortizのアルバムもエグゼキュティブ・プロデュースしているから、今年はオレの名前を見かけることが多くなりそうだな。

 

■お約束なのですが、アナタにとってHip Hopの定義とは?

ビート、ライム、そしてライフ(「Beats, Rhymes and Life」)だ。A Tribe Called Questだよ。それが全てを語っているだろ。ブレイクダンス、DJ、グラフィティと、定番の答えを言うことも出来るけど、それらは社会の中で形を変えて生存していると思う。その点、ビート、ライム、ライフの3つは、他よりもより優れたことをしてプロップスを得る、それだけなんだ。金なんて関係ない。もちろん、それを生業に出来たら最高だけどな。グラフィティやブレイクダンスを生涯の”楽しみ”としてやっている人たちは本物だと思うけど、それ以外はHip Hopとは違う気がするね。今は、その利点だけを利用している人間が多過ぎるよ。要は、同じコトばかりをするヤツが増え過ぎてウンザリってことだ。だからこそ、原点回帰する必要があるんだよ。Termanologyが出て来た1995年に男らしいヤツらが支持していたのはMobb Deepだ。今のヒット曲が必ずしもオレたちがやりたいサウンドとは限らないってことだ。DJ Premier、Alchemist、Large Professerと仕事をしてきたTermanologyは、その面子だけで”バックパックラッパー”として位置付けられているけど、”パックパックラッパー”は元々は”アンダーグラウンド Hip Hop”として認識されているジャンルであり、その起源を考えてみると、Cold Crush Brothersに辿り着くし、90年代だと、GangstarrやHip Hop史における最重要グループ、Wu-Tang Clanもそこに属することになる。つまり、アンダーグラウンドはドープなんだよ。ダーティサウスのビートも良いし、クラブバンガーを作ってサクっと儲けるのも一つの方法だけど、でも大切なのは”バランス”なんだよ。T-Painをディスるワケじゃないけど、みんながみんなT-Painのフックに頼ったり、人気プロデューサーのトラックならクオリティ関係なく金を払うっていう今のシーン自体には疑問を感じずにはいられないね。バランスだよ、バランス。BrooklynをドライブしながらPlies聴いてるヤツなんて、女々しい以外の何者でも無いよ(笑)。これはオレの個人的な意見だから、中立になるつもりもないけど、Soulja BoyはKriss Krossよりも対象年齢が上だと思うし、例えば当時Kriss Krossの「Jump」が流行ったからといって、大の大人がわざわざアルバムを買いに行ったとは考えにくいよ。それって、オレがバービー人形を買うようなもんだと思うけどな。

 

■最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

Hip Hopを生かし続けて行こうぜ!日本のアーティストのアルバムも何枚か聴いたけど、ドープなのもいくつかあったし、明日からのツアーが楽しみでしょうがないよ。

 

Interview & Text: sassyism

 

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