■The Notorious B.I.G.のデビューアルバム『Ready To Die』のアルバムタイトル曲を始め6曲、『Life After Deth』では「Goin Back To Cali」を含む2曲、そして2 Pacのプロデュースもされた、数少ないプロデューサーの1人ですが、2人に関して特に思い出に残っているエピソードがあればおしえてください。
Biggie(The Notorious B.I.G.)と一緒にスタジオに入るのは毎回楽しかったよ。あいつはいつもジョークばっかり言ってみんなを笑わせていて、仕事にならない日もあった(笑)。最初にPuffy(Puff Daddy)がMtumeの「Juciy Fruit」のループでトラックを作ってくれって、オレにオファーして来たんだけど、あの曲は有名すぎて当時のオレはどうしても気が乗らなくて放っておいたんだ。その後、Pete Rockが上手く料理したトラックが出来上がったのに、最終的にはリミックスって形になってたのも、ある意味、Biggie絡みの思い出だな。2 Pacは、とにかく”熱い”男だったよ。オレが2 Pacのプロデュースしたとき、Puffy(Puff Daddy)が極端に嫌がったのを特によく覚えているよ(笑)
■Puff Daddyと言えば、確かCraig Mack「Flava In Ya Ear」のクレジットを巡って揉めてませんでした?
日本まであのニュースは届いてたのか(笑)? 今さら、あの話をする気はないけど、オレは相手が誰だろうと泣き寝入りするタイプじゃないし、あの一件の後、いろいろあったけど、幸運なことにオレのビートを愛してくれるアーティストは沢山居たってことだけが救いだね。人間関係がどうであれ、”作品”が全てを語ってくれる、それだけだ
■過去のことを蒸し返すようで心が咎めるのですが、先日公開された映画『Notorious』では、アナタをキャプチャーする人物は登場していませんよね?
残念ながらね。でも、映画でキャプチャーされていなくても、オレはBiggie(The Notorious B.I.G.)の初期に間違いなく存在していたし、Biggie(The Notorious B.I.G.)を愛している人間ならそれを解っていると願っているよ。映画のプレミアで久々にFaith EvansやMary J. Bligeに会えたのが嬉しかったな。Faith EvansもMary J. Bligeもいくつかオレのビートを選んで行ったから、もしかしたら、新作で使われるかもな。楽しみだよ
■楽しみですね! では、とても根本的なことから聞かせてください。音楽業界で仕事をし始めた、そもそものきっかけは何だったんですか?
音楽業界で仕事をしたいなんて思ったことはないんだよ。自然の流れでここにいるだけだ。昔から、ドラムマシーンやターンテーブルで遊ぶのがとにかく好きで、機材を揃える前から、ポーズを施したビートをカセットに録音してはみんなに聴かせてた。そしたら、みんながプロデューサーになることを勧めて来て、でもそのときオレは、定職に就いていたから、安定した生活を捨ててプロデューサーになることなんて、全く考えてもいなかったんだ。それにプロデューサーという仕事が、生業になるとは思ってもいなかったしな。オレの最後の定職は電気工だ。1986~1990年まで働いていたよ。つまり、Big Daddy Kaneの仕事を請けたときは、オレはまだ電気工として働いていたんだ。遅刻や欠勤が増え始めて、その後、しばらく考えた結果、音楽という”夢”に賭けてみることにして、今のオレがあるわけだ。考えている間に、Genius/GZAのアルバムにも参加することになった。当時、オレのビートは1曲1000ドルで、10曲提供したから、サクっと1万ドルを稼いだよ。今だったら、その値段だと侮辱に値するけどな(笑)。その1万ドルで銀行口座を開いて、1万ドルを切らないことを心に決めたんだ。今だにそれだけは守れているよ。って、もちろん、それ以上を稼ぎまくったけど、要は、貯金が1万ドル以下にならないように一生懸命努力するっていう、自分との約束だったわけだ。このインタビューを読んでいる人で、夢を追うことに躊躇している人間がいるなら、怖がらずにまずはトライしてみることを勧めるね。もし、オレがあのとき、夢を追わずに電気工の仕事をしていたとしても、Easy Mo Beeは存在していたと思うよ。ただ、自分の部屋の中だけで、だけどな。多分、今だにママとプロジェクトで同居しているだろうな(笑)。この業界に長くいることで、嫌なことも沢山経験したけど、後悔は一つもないんだ。あのときのオレの選択はまちがいなく正しかったと思ってるよ
■美談じゃないですか。Genius/GZAの後はどういったアーティストを手掛けましたか?
Genius/GZAの後は、リミックスをいくつか手掛けたな。オレの初めてのリミックス作品は、3rd Bassの最後の曲だ。映画『Gladiator』の曲で同名の曲をリミックスしたよ。その頃には、スタジオ作業にも慣れて来て、エンジニアの動きも観察するようになった。あ、そうそう。Big Daddy Kaneをプロデュースする前は、オレ自身もラップネス・ファンディメンタルっていうグループに所属していたんだ。歌とラップの融合したグループだったな。ラップ、ビーツ、ターンテーブルというHip Hopの要素をDoo-Wopスタイルの歌と混ぜ合わせたスタイルだったよ。Miles Davisの遺作もオレのプロデュース作品だ。JazzとHip Hopのハイブリッドだよ。Miles Davisにアルバムや曲のタイトルをどうするか聞いたら「そんなの知るか、オマエが考えろ!」って言われたことを思い出すね。Miles Davisは昔のJazzのスタイル、B-Bopの人間だし、オレたち(ラップネス・ファンダメンタル)もアルバムの中の曲「The Doo BopSong」でパフォームしてるから、『Doo-Bop』にしたんだ。その後は、LL Cool J、Heavy D、Biggie(The Notorious B.I.G.)、2 Pac、Lost Boyz、Craig Mack、Queen Latifah、Busta Rhymes、Public Enemy、Mos Def、スタッテンアイランド出身のWu-Tang Clanの取り巻きのKing Just「No Flows on the Rodeo」、覚えてるか? その後は、Alicia Keys・・・いっぱいいすぎて忘れちまったよ。おっと、忘れてた!Doug E. Freshもプロデュースしたな
■Miles Davisとのスタジオ作業は、どんな感じだったんですか?
Miles Davisとのスタジオ作業は、とにかく緊張したよ。大ベテランだからな。このスタジオ(Easy Mo Beeが所有するスタジオ)で何曲か録ったんだよ。その後しばらく経って、このスタジオが売りに出されることになって、オレのところにも話が来たから、すぐに買い取ることを決めたよ。ここで沢山の曲が生まれたんだ。2 Pacともこのスタジオで録ったんだぜ
■アナタが手掛けた膨大な作品の中で、特に気に入っているのは?
個人的に特に気に入っているのは、Busta Rhymesの「Everything Rememins Raw」だな。あとはもちろん、Craig Mackの「Flava In Ya Ear」だ。両方とも10年以上前の曲だし、オレの作品だけど、オレ自身がファンであり、愛している曲たちなんだ。あの2曲はオレのスタイルを最も忠実に再現していると思うからな。サンプルをチョップする手法、キック、スネア、オレのビート作りの根っこの部分だと言える。Biggie(The Notorious B.I.G.)の「Machine Gun Funk」もだな。オレのことを知らない人は、まずこの曲たちを聴いて欲しいね。オレの名刺代わりみたいなもんだから」
■Craig Mack「Flava In Ya Ear」の独特の”空間”が大好きなのですが、ビートを作るときの基本的な機材をおしえてください。
SP1200と950だな。これでたくさんの名曲を生み出して、今だに現役だ。オレは子供のときから教会でドラムを叩いていたから、ドラムは大切な要素の一つでもあるな
■アナタが特に影響を受けたアーティスト(プロデューサー)は?
Marley Marl、Teddy Riley、Hurby “Luv Bug” Azor、Howie Tee。若い人たちは知らないかもしれないけど、彼らこそがHip Hopのベースを創った人たちだ。DJ Jazzy Jayもそうだな。DJ Jazzy JayはDJとして知られているけど、初期の頃は、プロデューサーとして活躍していたんだぜ。Grand Pubaが所属していたMasters of CelemonyやUltramagnetic MC’sとか、あまり知られていないけど、「South Bronx」「Bridges Over」のビートは彼の作品なんだよ。彼らがオレに最も影響を与えたプロデューサーたちだね
■アナタが音楽を始めた時代と現在の違いをあげるとすると?
最大の違いは、今のHip Hopはコマーシャライズされることに重きを置いているってことかな。つまり、全てが計算された音楽だってこと。Big Daddy Kane、Kool G Rap、Rakim、Queen Latifah、Mc Lyteなんかが活躍した頃は、頭に浮かんだことをリリックにして、適当にタイトルをつけて、それが曲として完成していたんだ。今は、全てが定式化されていて、この曲はクラブ用、あの曲はラジオ用って感じで、いちいち特別なトピックを設けるようになってると思うね。当時は、そんなことを意識するヤツなんていなかったよ、オレの知る限り。今のHip Hopは宣伝道具の一つだってコトだ
■Hip Hopのグロバール化は予想されていましたか?
Vanilla IceやYoung MCなんかが出て来始めてから、意識するようになったな。Hip Hopを含む、世の中で”芸術”と位置づけられているもののほとんどは、その創世記が最も”アート”な魅力を発揮していると思うね。それが”流行”になってしまう頃には、常にマスを意識しなきゃいけないし、”アメリカ”が主導権を握ったときには、変化を余儀なくされるんだ。アンダーグラウンドの音楽は、興味を持った限られた人間しか聴かないけど、世界をマーケットとして考えた場合は、自分が欲する音楽を創るというよりも、他人(=不特定多数)が喜ぶ作品を生み出そうと思い始めるもんなんだよ
■サウスの台頭については?
サウス特有の訛りや言い回しは別として、ビートに関しては、Def Jam初期の頃の808ドラムマーシンのと何ら変わりがないと思うね。キーボードが載ってるだけで、Beastie Boysの「Hold It Now, Hit It」、T La Rock「It’s Yours」、Original Concept「Knowledge Me」あたりと聴き比べてみると解ると思うよ。あとは、NYの連中は、他のアーティストといがみ合ったり、邪魔したり、撃ち合ったり、そんなことばっかりしてるから、主導権がサウスに移ってしまったんだと思うね。協力し合って良い音楽創ることが1番大切なのに、それを忘れてるだろ。例えば、50 CentとNasは一緒に曲を創ることはないけど、NasはThe Gameとはコラボしてる。そうなると、自動的にNasは50 Centのディスの対象になってくる。変な話だよな
■まぁ、でも、ディスり合うのは効果的なプロモーションですしね。
もちろん、昔からバトルはあったけど、今のようなレベルでのバトル(ディス)は度を超していると思うけどね。そんなにバトルし合ってるのが観たいなら、この際ラップは止めてボクサーにでも転身すれば良いんだよ
■50 Centだったら、結構良いとこ行きそうですよね。さて、業界歴の長いアナタですが、フレッシュさを保つ秘訣をおしえてください。
愛して止まない曲をコンスタントに聴き続けることかな。ラジオはあんまり聴かないんだ。流行の音に左右されるのは嫌だし、不快な音は耳を悪くするだけだからな。オレの家の地下倉庫は、レコード室になっていて、Jazz、Disco、Gospel、Hip Hop、膨大な枚数のコレクションになっているよ。それらを定期的に聴くことが、オレのモチベーションを保つ秘訣だな
■レコードコレクターとしては、音楽の売買がデジタルに移行しているのは寂しかったりしませんか?
テクノロジーの進歩ってのはスゴイよな。個人的には、まだまだレコード屋に行って、作品を手に取る喜びを味わいたいと思うし、実際にそうしてる。デジタル配信は、アートワークもスクリーン上でしか見れないし、面白みに欠けると思うね。DJだって同じだろ。デジタル化によって、重たいレコードを運ばなくてよくなったけど、クリックするだけなんて味気ないよ。オレは今だにレコードを運んでるし、完全にデジタルに移行するには時間がかかりそうだね(笑)。オレはオールドスクールの人間だし、今後も可能な限りレコードを集め続けるつもりだ。週に3~4回はレコード屋に行くのが日課だし、ガラージセールも覗いたりするんだぜ。意外な掘り出し物があったりして、楽しいからな。CDからサンプリングすることもあるけど、オレはアナログのあのファットで温かい音が大好きなんだ。アナログからサンプリングするときは、針を絶対45に合せるのがオレのスタイルだね。現状のように、ヴァイナルを買う人はごく限られた人間になるだろうけど、絶対に無くなることはないと信じてるよ。無くなったら、オレが困るからな(笑)。プレミアもラジオで同じこと言ってたぜ。オレもデジタル配信の会社を立ち上げているけど、ヴァイナルも常にリリースし続けて行くつもりだしな。直にレコードに触れてスクラッチしたいDJたちのためにも、作り続けなきゃいけないと思うね。Hip Hopはそこから生まれたんだから
■最近のアーティストで興味を持った人はいますか?
最近はディスコばっかり聴いてるからな・・・
■え、今のって笑っても良いトコですよね?それって、最近のアーティストに興味ナシってことでしょ?
オレなりの皮肉だよ(笑)。最近のアーティストだと・・・、Termanologyは良いね。去年リリースされたアルバム『Politics As Usual』にオレも1曲提供しているんだけど、オレがあのプロジェクトに参加したときには既にレコーディングは終っていたんだ。Termanologyがどうしても参加して欲しいって言ってくれて、最終的にはオレのトラックはイントロに使われることになったんだけど、次回は是非オレのトラックにスピットして欲しいと思うMCだね
■新人アーティストの話になりましたが、業界歴の長いアナタとしては、彼らにどんな経験をして欲しいと願っていますか?
自分らしさを失わないで欲しいと願うね。もちろん、オレの経験を通してなるべく近道させてあげたいとは思うけどな
■プロデューサーとして、MCに求める要素は?
フロウだね。あとは声のトーンだ。声は成功するための大切な要素だと思うね。求めてないのを言った方が解りやすいかもな。オレは自分のことを”ゴッド(神)”だと言うヤツほど信用していないね。この世に神は1人だけで、そこと自分を比較しようなんて求める以前に願い下げだ
■現在取り組んでいるプロジェクトを教えてください
オレのアーティストでハニーというシンガー/ラッパーのプロジェクトが進行中だ。あとは、Cormegaともセッションしたな。M.O.P.のLil’ Fameも一緒だったよ。そのちょっと前は、久々にMr. Cheeksともセッションしたよ。昔を思い出して楽しかったな
■Mr. Cheeksとの曲って、Group HomeのLil’ Dapがフィーチャーされているやつですか?
なんで知ってるんだよ!? ついこの間、レコーディングしたばかりなのに、もうリークされてるのか?
■いやいや、私にもちょっとしたコネがありまして(笑)。Mr. Cheeksといえば、私が初めてオフィシャルに仕事したアーティストなんですよ。
日本でもオレがプロデュースしたLost Boyzの曲は知られているのかな?
■もちろん! 最近レコーディングした曲は何のアルバムに収録予定でしょうか?
今の時点では、オレとMr. Cheeksが一緒にセッションしただけとしか言えないけど、オレとMr. Cheeksは過去に一緒にヒット曲を作った仲だし、あいつと作業するのはとにかく楽しくて仕方ないね。Mr. Cheeksはオレのスタイルを良く理解しているし、音楽的な相性が良いと言えるからな
(その後、その曲はMr. Cheeksのニューアルバムに収録されることが決定した模様)
■Lost Boyzといえば、Swizz Beatzが「Jeep, Lex, Coups, Bemaz & Benz」をサンプリングしたLil Kimの「The Jump Off」もスマッシュヒットしましたね。
オレは「The Jump Off」に関しては一切何もしていないんだけど、著作権もクレジットもきちんとしてくれたし、小銭も入ってきたから、言うことナシだな
■アナタにとってのHip Hopの定義は?
2台のターンテーブルとマイクロフォンだ。Hip Hopは”無”から生まれた”芸術”だからな。Kool Herc、Afrika Bambaataa、Grandmaster Flash、Grand Wizard Theodoreたちは、たくさんのレコードを聴きまくって、多分8秒とかそれくらいの最高の部分を聴きわけて、2台のターンテーブルで延々カットしたことが始まりだろ。それこそ”無”から生まれた”芸術”だと思うね。オレも、いろんなレコードからキック、スネア、ホーン、ベース、キーボード、あとは効果音をサンプリングするけど、例えばCraig Mack「Flava In Ya Ear」の効果音なんて、いろんなヤツに「あの効果音はどこからサンプリングしたんだよ?」って聞かれたもんだ。それも同じく”無”から生まれた”芸術”だろ。メンタル的にオレが思うHip Hopの定義は「オレはオマエより才能がある!」っていう心意気だな。つまり競い合うってことだよ。誰かがフリースタイルし始めたら、必ず、「オレの方が上手いね」って言って他のヤツがフリースタイルで応戦するだろ。負けず嫌いの人間じゃないなら、Hip Hopをやる意味なんて無いとオレは思うね。そんなヤツだと、まず楽曲に負けてしまうし、他のアーティストに勝てるハズもないだろ。負けず嫌いのソウルを持っていることがまず最初に大切なことだ。競争を避けてしまったら、成長も無い。だから、競争するのが嫌なヤツには、Hip Hopは最も向かない世界だな。オレがこの仕事を始めた頃、Big Daddy KaneやBiz Markie、EPMD、Run DMC、Kool G Rapの曲たちが本当に大好きだったけど、それよりも上を行くプロダクションを創ることに専念したもんだよ。
■最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
日本のみんなこんにちは。オレのことを覚えてくれていると嬉しいんだが。職種は何であれ、この業界で働きたいと思っているなら、まずは歴史を学ぶことだ。音楽は芸術だ。Hip Hopに関しては、ブラックミュージックのほんの一部であり、Jazz、Blues、Soul、Gospel、Disco、Black Musicを知ること。MCになりたいなら、Public Enemy、KRS One、初期のLL Cool J、Cold Crush Brothers、Grand Master Caz、Kool G Rap、EPMD、Queen Latifah、Mc Lyteをまずは聴いて、勉強しろ。Hip Hop創世記を聴かずして、成長はないと思うぜ!
Interview & Text: sassyism